広島地方裁判所 平成6年(モ)459号 決定
原告
アピリンプラレス・フロリダ
同
プラレスアサダ・ダイスケ
右法定代理人親権者母
アピリンプラレス・フロリダ
原告ら訴訟代理人弁護士
野曽原悦子
同
定者吉人
同
桂秀次郎
同
佐々木猛也
同
島方時夫
同
足立修一
同
上原康夫
同
竹下政行
同
田上剛
同
中島光孝
被告
法務大臣
三ケ月章
同
国
右代表者法務大臣
三ケ月章
同
広島入国管理局主任審査官
豊永純雄
主文
本件申立を却下する。
理由
一 申立の趣旨及び理由
別紙異議申立書記載のとおり
二 当裁判所の判断
1 一件記録によれば、次のとおりの事実が認められる。
(一) 本件訴訟における原告らは、平成五年一二月一三日、広島家庭裁判所平成四年家第一四〇三号市町村長の処分に対する不服審判申立事件記録(以下「本件文書」という。)につき、文書送付嘱託の申立を行った。
(二) 当裁判所は、平成六年一月二〇日、右申立を採用し、同月二五日、広島家庭裁判所に対し、本件文書の送付嘱託をしたところ、同月三一日、同裁判所から、本件文書の送付を受けた。
(三) 当裁判所書記官丸住隆昭(以下「丸住書記官」という。)は、同年二月七日、広島家庭裁判所に対し、本件文書全部についての閲覧・謄写を許可して差し支えないか否かを照会したところ、同裁判所家事審判官は、右同日、本件文書中、九九丁ないし一二一丁及び一九一丁の部分についての閲覧・謄写は相当でない旨回答した。
(四) 原告ら訴訟代理人弁護士野曽原悦子は、同月八日、本件文書全部の閲覧・謄写申請(以下「本件申請」という。)をなしたのに対し、丸住書記官は、右同日、「九九丁ないし一二一丁及び一九一丁の部分については、家事審判官の閲覧不相当との意見により許可することができない。」との理由を付して、本件申請のうち右部分に係る申請を拒絶する旨の処分(以下「本件処分」という。)を行った。
(五) 本件異議の申立は、本件処分を不服としてなされたものである。
2 そこで検討するのに、まず、原告らは、文書送付嘱託によって送付された文書(以下「送付文書」という。)は訴訟記録に準ずべきものであるから、その閲覧・謄写の申請については民事訴訟法一五一条が準用され、本件申請の拒絶が認められるのは同条一項ただし書きの場合に限られるべきであると主張する。
しかしながら、訴訟記録とは、一定の事件に関し、裁判所及び当事者にとって共通の資料として利用される、受訴裁判所に保管された書類の総体であって、裁判所の所有に属するか、あるいはその所有に任された書面をもって構成されるものと解すべきところ、送付文書は、たとえ一時的に裁判所に留置する場合でも、いずれ送付者に返還されるべきものであって、裁判所に所有権はなく、またその所有に任されたものでもないから、送付文書は訴訟記録に含まれないものというべきである。
したがって、送付文書の閲覧・謄写の申請は、訴訟記録に関する民事訴訟法一五一条を根拠としては行うことができないものというべきであり、この点に関する原告の主張は失当である。
3 もっとも、文書送付嘱託の申立をなした当事者については、右嘱託に基づき送付された文書を閲覧した上で、必要に応じ、これを書証として提出することが予定されているものというべきであるから、文書送付嘱託の申立について定める民事訴訟法三一九条は、右当事者に対し、送付文書の閲覧請求権を付与したものと解すべきであり、原告らは、右規定に基づいて、本件文書の閲覧・謄写を申請しうるものというべきである(原告らも予備的に、右規定に基づく閲覧請求権を主張しているものと解される。)。
しかしながら、文書送付嘱託は、文書の所持者が当該文書について提出義務を負わない場合に、その任意提出を求める手段であって、所持者は、その裁量による判断に基づき、送付が不相当であるとしてこれを拒絶することも、もとより可能であることからすると、その手続において所持者の意向を考慮せざるを得ないことは明らかであるから、送付文書の閲覧・謄写に関し、送付者が一定の意思を表明している場合には、閲覧・謄写の申請を受けた書記官において、右意思を尊重して、その許否を決したとしても、何ら違法ではないというべきである。これを本件について見ると、丸住書記官は、本件文書の一部につき閲覧・謄写を相当でないとする広島家庭裁判所家事審判官の意見に従って、本件処分を行ったものであるから、右処分は適法というべきである。
三 よって、本件申立は理由がないから、これを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官喜多村勝德 裁判官古賀輝郎 裁判官角井俊文)
別紙異議申立書
申立の趣旨
一、原告代理人野曽原悦子の申請した後記閲覧申請に対し、裁判所書記官丸住隆昭がなした九九丁ないし一二一丁及び一九一丁の部分につき閲覧を拒絶した処分を取り消す。
二、広島地方裁判所民事第二部書記官は、原告代理人野曽原悦子の後記閲覧申請に基づき、申請部分を全部閲覧させよ。
との裁判を求める。
申立の理由
一、原告は頭書事件(以下、本件事件という)において、平成五年一二月一三日、平成四年(家)第一四〇三号市長村長の処分に対する不服申立事件事件記録の文書送付嘱託申請をし、右申請は平成六年一月二〇日に採用され、同年二月一日、右文書の送付があった旨の通知があった。
二、右文書は、平成二年九月一二日に件外浅田信利が広島市西区役所市民課に赴き胎児認知届をしている事実を主張立証する上で極めて重要なものであり、原告代理人野曽原悦子は平成六年二月八日、同記録を本件事件における主張・立証準備のために閲覧申請をしたところ、同日裁判所書記官丸住隆昭は右文書のうち、九九丁ないし一二一丁及び一九一丁の部分につき閲覧を拒絶した。
三、ところで、取寄記録は民事訴訟法第一五一条の訴訟記録に準じ、裁判所書記官は閲覧の申請に応ずべきものであるとされている(新訂民事実務の研究一七〇頁、裁判所書記官合同協議要録(民事関係)七頁等)。
そうだとすれば、閲覧申請を拒絶する際にも民事訴訟法第一五一条一項但書に準じて、記録の保存や裁判所の執務に支障がある場合に限られるべきであるが、本件においてはそのような事情は全くない。
四、尚、昭和四一年度民事首席書記官高裁管内別会同において「取寄せに係る刑事訴訟記録を弁論に上程する前に、第三者(たとえば被害者やその親兄弟等)から閲覧・謄写の申請があった場合、これに応じてよいか。」との議題が提出された際、「否。取寄せの刑事事件記録を民事事件の裁判所で誰にでも閲覧させるということであれば、刑事事件の裁判所としては、取寄せに応じて送付することをちゅうちょせざるをえないことになると思う。取寄せの刑事事件記録は民訴法第一五一条の閲覧の対象にならないとすれば、攻撃防御の準備のために必要な限度において、当事者に限って閲覧を許すべきではないかと考える。」との協議結果が出ている(裁判所書記官会同協議要録(民事関係)七頁)。
本件取寄記録の閲覧申請をしたのは第三者ではなく、原告代理人である。また、不許可になった部分のうち、おそらく九九丁ないし一二一丁は件外浅田が胎児認知届をした平成二年九月一二日前後から、同年九月三〇日(被告はこの日に初めて胎児認知届があったと主張する)前後の広島市西区役所備付の戸籍受付帳及び戸籍発収記簿の写しであり、おそらく一九一丁は広島家庭裁判所が平成五年(家)第一四〇三号事件につき却下決定を出す直前に家庭裁判所の職員が聴取した電話聴取書(架電の相手方はおそらく広島入国管理局であろうと思われる)の写しであるものと思われるが、いずれも原告の攻撃防御のためには必要不可欠な部分である。
よって、右協議結果を前提としても、本件において閲覧を拒絶することは認められないものである。
特に、今回、原告は裁判所より「平成四年九月一二日の胎児認知届は口頭によるものか、書面によるものか、口頭によるものであるとすれば戸籍法三七条二項の手続はとられているか。」等につき釈明を受けているが、前述の戸籍受付帳及び戸籍発収記簿にいかなる記載がなされているかを知らずして右釈明に対する主張準備をすることは不可能である。
五、よって前記裁判所書記官の処分に異議を申立て、申立の趣旨記載の裁判を求める。
閲覧申請の表示
原符番号 第五二二号
申請年月日 平成六年二月八日
事件番号 平成五年(行ウ)第五・六号
当事者 原告等アピリンプラレス・フロリダ外一名
被告等 法務大臣外
閲覧・謄写の部分 取寄記録全部(広島家裁)